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 今回は、フランスの新しい生産者をご紹介したいと思います。

コート・デュ・ローヌで、ワインとオリーブオイルを造るラ・フェルム・デュ・パストゥール(La ferme du pasteur)のキャロライン・コノリー(Caroline Connolly)とレミ・カネコ(Remy Kaneko)です!

2021年がファーストヴィンテージ。この春初めて彼らのロゼをリリースします(➝写真)






1. キャロラインとレミ

 キャロラインは落ち着いた性格だが、ここぞという時とても頼もしく、包容力と優しさを兼ね備えた女性。

レミはパーティーナイト好きなお調子者だが、実はとても繊細で抜群のセンスの持ち主。

二人とも感受性がとても豊かで、バランスよくお互いをサポートする姿は、まるで美女と野獣。


キャロラインはアメリカ合衆国・バージニア州出身で幼稚園の先生を務めながらフランス語とロシア語と音楽を勉強していた。フランス文化を愛し20歳のとき初めて渡仏。それからしばらくアメリカとフランスを行き来し、2017年にソルボンヌ大学の大学院生としてパリに住み着く。

レミは南仏ニヨンで代々続いているオリーブ農家出身。元々デッサンや3Dアニメーションの勉強をしていたが、パソコンの前にずっと座っていることに嫌気がさし、パリへ移り石像彫刻家となる。

素晴らしい師匠と出会い、フランスの歴代の王様たちが戴冠されてきたランスのノートルダム大聖堂の外壁の修復に10年間携わった。その中で最もレミが誇らしいのは、表門の約5mの石像を彫ったこと。


そんな二人がどのように出会ったのか?


2. ナチュラルワイン、「シャンブル・ノワール」、そして二人の出会い


キャロラインとレミの出会いの引き金となったのは、ナチュラルワインだった


始まりは2015年。パリでレミはオリバーというメキシコ出身の男性に出会う。写真とナチュラルワインが好きなオリバーは、当時フランスに居る為の滞在許可証が切れていたのにもかかわらず、パリで自分の店を開けようとしていたやんちゃな人物! 出会ってすぐ馬が合った二人。


ある日、オリバーはレミにボジョレーのあるガメイを飲ませる。レミの人生で初めてのナチュラルワインだった。


「たしか、ジェローム・バルメのワインだったかな? その時の印象は、まるで体中に電気が走ったような感じで、鳥肌が立ったよ! 俺はもともとお酒があまり飲めない体質だったけど、そのワインはスイスイ飲めたんだ。ナチュラルワインの酔いは今までと全く違う心地よさがあった。『明晰な酔い』って言うのかな…とにかく初めての体験だったんだ」。


それから間もなく、違法滞在者のオリバーは飲食店免許も持たないままに、シャンブル・ノワール(Chambre Noire)を開業した。のちにこの店は、添加物ゼロのワインだけしか扱わないエクストリームなナチュラルワインバーとして、パリで一世を風靡する。


レミは店の内装工事や開店準備を手伝っていた。やがて、無免許営業により警察から目を付けられたオリバーをフォローするために、彼の代わりに営業免許をとることを決断。こうして二人はビジネスパートナーとなった。

アンダーグラウンドでいいかげんなワインバーだったが、二人の人柄、センス、まとう雰囲気、そして良心的な価格で尖ったワインセレクションで、みるみる人気店へと成長。この時キャロラインは、お酒を飲まないにもかかわらずこの店を利用していた

何年間もお酒を飲んでいなかったけど、店の雰囲気が大好きだったから、友達とよく行ってたの。当時お水しか飲んでいなかったけどね」と笑って話す。


「ある日友達がお手洗いに行ってる隙に、友達がオーダーしたワインを好奇心で嗅いでみたの。そしたら、あまりにいい香りでつい口にしてしまった。ワインをあんなにおいしいと思ったのは、初めてのことだったわ」。

彼女が口にしたワインは、ロワールのヴィニョーブル・ル・タン・デメのキュヴェ・マリスだった。これがきっかけとなり、彼女もワインが好きになった。

この時のシャンブル・ノワールには、たくさんの芸術家やミュージシャン、料理人やワイン生産者が集まるパリで一番活気のある場所だった。彼らのようにここで初めてナチュラルワインを口にし、ワインが大好きになる若者がたくさんいた。

そして必然と、このワイン好きのコミュニティを通してキャロラインとレミは出会う。

ナチュラルワインによって、二人は巡りあったのだ



3. 二人の哲学、ワインを造り始めたきっかけ

「なんでワインを造りたくなったって? そりゃ、大好きだからさ。そしてこの先ずっと飲み続けるためにも、自分で造るのが一番だと思ったからね」と、レミは話す。

彼は、ナチュラルワインを初めて口にしたときから、「自分でも造ってみたい」と思っていたらしい。さすが元職人。

生産者やナチュラルワインに関わる人たちみんなのことが、とても好きなんだ。一本のワインで色んな人たちと繋がって、喜びをシェアし合う。だから俺はこの世界が大好きなんだ」



彼がワイン造りをしたいと思った理由はもうひとつある。レミの実家には、オーガニックのぶどう畑と、昔曾祖父が使っていたセラーがあるからだ

「俺は恵まれた環境にたまたまいたから、ワイン造りをすぐできると思ったんだ」

レミはまだワインを飲み始めて間もない2016年に、オリバーと共に実家でガレージ・ワインを造ってみた。ワイン造りの道への一歩だ。


一方キャロラインは「ワイン造りを始めた理由? それは私はレミのことが好きで、彼にそそのかされたからよ」と笑って話す。

そんな彼女も、若い時から自然や生き物と関わることが大好きだった。

ワインを始めた理由より、今どうしてワイン造りが大好きなのか、のほうが答えられると言う。

「ワイン造りと農業を始めたことで、何か大切なものを未来や次世代に残せる気がする。それはワインであり、畑であり、知識や哲学でもあると思うの」。彼女はレミの実家が代々受け継いできた大切なものを、自分たちの考えを加えながら、未来に繋げていけることにやりがいを感じている。

「自然との距離が近くなったのも嬉しいわ。ワイン造りは、単なる労働だけでなく、化学的な面や経営の面、社会的な面など多岐にわたるの。予想以上にやることと考えることが多くて、とてもクリエイティブでおもしろい」。


二人のワイン造りの方針は、もちろんオーガニックのぶどうで一切の添加物を使用しないワインだ。天然酵母と天然乳酸菌で発酵させたぶどうの果汁のみを600Lの大樽で一年間寝かす。清澄も濾過も無しで、手動でゆっくりボトリング

レミがシャンブル・ノワールにいた頃から、二人は生産者訪問を重ね、たくさんの人と出会い話し合いをした経験を生かして、エネルギーいっぱいのピュアなワイン造りをしている

農業に関して彼らの心の師匠は、スロヴェニアのビオディナミ農法の巨匠、ラドヴァン・シューマンだ。彼らの次のステップは、畑をビオディナミ農法へ移転すること。そして最終目標は、多様な動物や植物を育てながらの、持続可能な農園だと言う。



4. 実家の農園とファーストヴィンテージ

レミの実家はラ・フェルム・ブレスという、1829年から代々続くニヨンの名産物・黒いテーブル・オリーブの有名な農園だ。そしてオリーブ畑に加え、ぶどう畑も20Haほど所有している。昔はワインも造っていたが、祖父の代からはオリーブの生産に特化し、ぶどうは農協に売っていた。

レミの母親であるブレス家6代目のレジーヌさんは、15年前から農園をすべてオーガニック栽培に変えたパイオニアだ

また、レミの父方の曾祖父母は、フランスで農業をするために1922年に横浜から移住してきた日本人だ。

そんなバックグラウンドを持つレミは、2020年キャロラインと共に騒がしいパリを後にしフェルム・ブレスへ移住する。同年、農園で研修しながら農業資格を取得。

そしてついに2021年、二人はブレス農園の一番いいぶどう畑を2Ha借り、曾祖父が昔使っていたセラーでファーストヴィンテージ、赤ワインとロゼワインを造る。La Ferme du Pasteur の誕生だ。



5. ぶどうとオリーブの畑

彼らのワインのぶどうの大半は、ニヨンから少し離れたサン・モリス・シュール・エーグ村(Saint-Maurice-sur-Eygues)の山中にあるグルナッシュ・ノワールだ。四方を樹々に囲まれた2Haほどの畑だ。アペラションを申請していれば、コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュに当てはまるテロワールだ。それに加えて、ニヨンには少しだけシラーの樹がある。


グルナッシュの区画名は、「レ・ゾラニョン/Les Olagnons」といって、昔の方言でヘーゼルナッツの木を意味する。


ここは人けがなく、鳥の鳴き声や枝を通り抜ける風の音が響き、タイムやローズマリーの香りが漂っている。足元には乾燥した粘土石灰質の土と、南コート・デュ・ローヌ地方独特の「ガレ・ルレ」と呼ばれる石が暑い日差しを浴びている。石英を多く含むこの丸いな石は、氷河期の頃アルプス山脈からローヌ川に運ばれてきたものだ。顔を上げれば目の前にモン・ヴァントゥ山が広がる。

畑はふたつに分かれている。

一方は1960年にレミの曾祖父がセレクション・マサルをゴブレ仕立てで植えたグルナッシュのヴィエーユ・ヴィ―ニュだ。レミの母親が守ってきた美しい古樹たち。もう片方は、垣根仕立てで生き生きとしている樹齢25年のグルナッシュ。ここは山に囲まれているため、南仏にもかかわらず冷涼感のある静かな畑だ。それはワインの味わいにも影響している。


キャロラインとレミは合計3Haのオリーブ畑も持ち、あっちやこっちで600株ほど栽培している。

このオリーブの木たちはブレス農園の所有ではないが、今年から正式にオーガニック認定できるいい畑たちだ。

品種は「タンシュ/Tanche」という、皺を持つ黒い楕円形のオリーブで、ニヨンの土着品種だ。テーブル・オリーブとオリーブオイルを造っている

オリーブオイルは専門業者が搾っている。黒く熟しきったオリーブで作っているので、タンニンは少なく滑らか。そして果実味が豊かで優しい味のエキストラ・バージン・オリーブオイルだ。




まだまだお伝えしたいことはたくさんありますが、今回はこの辺で。

ファーストヴィンテージ、彼らは赤とロゼの2キュヴェを造りました。

この春はまず、ロゼと同時にオリーブオイルをリリースしたいと思っています。

赤はこの秋にリリース予定ですので、もうしばらくお待ちください。お楽しみに!


合同会社Taka-La Project

水上貴翔より




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