Jakob Tennstedt
(ヤコブ・テンシュテット)
彼の名は、Jakob Tennstedt/ヤコブ・テンシュテット と言い、ドイツ南西・モーゼル地方で琥珀のような素晴らしいリースリングワインを2017年から造り始めた生産者です。
初めて彼に会った時、落ち着いた性格に低い声、そしてまるで心の中を読まれてしまうような青い瞳が印象的でした。ベルリン出身で、イタリアンの料理人でした。
そんな彼は今カウテンバッハ谷で、四方を森に囲まれた1.50Ha弱の超急斜面のぶどう園を一人で栽培しています。
畑からは見渡す限りの山々、斜面の麓からはモーゼル川の支流、カウテンバッハ川が涼しげな音色を響かせています。静かで美しく、同時に過酷な場所であることに気づかされます。
靴裏で崩れていくのは、さまざまな香草と交じり合ったブルーシストやグレーシストの破片に白い石英の塊。山慣れしているはずの私たちでさえ、まともに歩けない斜度70%を超える絶壁もありました。
収穫の時、ぶとうの房を落としてしまったことがあり、それは谷底まで止まらずに転げ落ちてしまうほど。
そんな急斜面の険しい岩盤に、必死に根付こうとしているリースリングの樹々がいます。
樹齢は若くて60年。古いものはなんと120年です。アメリカン・ルーツに接ぎ木されていない、自根のままの樹も多く植えられています。
粘土性がまったくなく崩れやすい、水捌け抜群のシスト土壌は、フィロキセラさえ苦手なのかもしれません。
そしてそれは人間も同様です。こんな急斜面によく樹を植えようとしたな、と思うほどです。当然機械は全く入れないほどの斜度で、近所の大きな蔵元はヘリコプターで農薬を撒いているぐらいです。
昔からワインで栄えてたモーゼル地方ですが、今では管理が大変すぎるということで、急斜面の畑がどんどん放置されてしまっているそうです。
そんな険しいぶどう園を除草剤、殺虫剤、そして化学肥料を一切使わずに維持するのはどれだけの体力と気力が必要なのでしょうか。
ヤコブは、この足場の悪い斜面をいとも簡単に駆け抜けながら、手作業で一本一本の樹を大事に手入れしているのです。
「畑にいる時が一番好きなんだ。ここは生き生きとしていて、風景もテロワールも素晴らしいよ」
美しく過酷な環境の中でヤコブの愛情をたっぷりと注がれたリースリングの樹々は、まるで宝石のような小粒で凝縮したぶどうを実らせます。
10月前半、ひと房ずつ選果を行いながら手摘み収穫。アルコール発酵が始まるまでの数十時間、軽く破砕した全房を低温度でスキンコンタクトします。そして圧搾後モーゼル独特の「葉巻型」大樽に移し、天然酵母と天然乳酸菌でゆっくりと発酵させます。
「ぶどうから何も取り除かないし、何も加えたくないんだ」
添加物は一切不使用、少なくとも2年間樽熟成してから生まれるのは、なんとも味わい深くピュアなワイン。まるで液状の琥珀のようなリースリングです。
ドメーヌ情報
・ドイツ モーゼル地方 トラーベン=トラーバッハ
・畑面積1.50ha
・ファーストヴィンテージ:2017年
・年間生産量:約10,000本
ワイン
・ペアールムット2018年(Perlmutt 2018):
・品種:リースリング100%、アルコール度数:12%
・栽培方法:オーガニック栽培
・畑の場所:トラーベン=トラーバッハ
・土壌:シスト土壌、急峻な南西向き斜面、森と川に囲まれた冷涼なテロワール
・樹齢:約60年~120年
・収穫方法:手摘み収穫、収穫時に畑で選果
・発酵が開始する前の24~48時間程度を低温度でスキンコンタクトをした後にプレス
・葉巻型大樽に移し、天然酵母でアルコール発酵、天然乳酸菌で乳酸発酵
・醸造中温度調節なし
・熟成期間:2年間
・ボトリング:2020年
・清澄なし、濾過なし、添加物なし、亜硫酸なし